石の菓子店には参加者である皆さまの手を介して、この場所まで動いてきた石が並んでいます。人の手によって動いてきた石に囲まれながら、一方で人の手によって土の下に埋もれてしまった石のことを思わずにはいられない気持ちになっています。

岩手県陸前高田市のまちの人たちが大切にしていた、五本松という石の存在を本プロジェクト準備中に知ったためです。信仰の対象でもあった大きな石ですが、復興工事による土地のかさ上げのため、土の下に埋もれてしまったというのです。

いずれの石も、人の手によってその運命が変えられたと考えることもできるのではないでしょうか。石の菓子店に動いてきた石は、今後EAT&ART TAROさんの個人コレクションになります。もしかすると、また別の作品になって登場するかもしれませんし、TAROさんからまた誰かの手に受け渡されるかもしれません。「動く石」のプロジェクトは、石というどこにでもある身近な存在から、人と人、人間と自然とが互いに作用しあっているということを想起させるものだと改めて感じています。

写真は、今回お菓子のモデルになった石の一つです。奈良のあるエリアに古くからある石ですが、今は民家のお庭に残されています。土地を購入する際に、この石は地域で大切なものだからと、残しておくことが条件になっていたといいます。年に数回、この石を目的に訪れる方もいるため、レンガで囲み綺麗にされたのだそうです。

テキスト:櫻井莉菜(「動く石」制作コーディネーター) 写真:茶本晃生