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[レポート] グリーン・マウンテン・カレッジ第2回 ゲスト:鷲田清一 11/29開催 

2020.12.24
グリーンマウンテンカレッジ

「こんばんは。」

ゲストの鷲田清一さんが、京都にある自宅の一室から焚き火の元集まった皆さんに呼びかけます。

「鷲田さん、こんばんは。今日は満月で綺麗な夜ですよ。」

ディスプレイの隣に座る小山田さんが、月を眺めながら返答しました。
グリーン・マウンテン・カレッジ、初めてのゲストオンライン出演は穏やかな空気で始まりました。

「今日のゲスト、鷲田清一さんは私の勤める大学の元学長でした。私が長年、多大な影響を受けた方です。今回、恐る恐るトークゲストにお声掛けしたところ、ご快諾いただきました。今回のテーマは[大きな食卓]です。以前、大学で立ち話したときに[拡大家族]が[拡大食卓]であるという話をしましたが、覚えていますか?」
「覚えていません。」

鷲田さんのカラッとした返事に、会場では笑いが起こります。

「今回[食]をテーマに選んだのは、コロナの状態で、人が集まって食事をするということが大きく変化したことがきっかけにあります。鷲田さんの周りでも変化はありますか?」
「すごくありますね。私自身、一緒に食事をしてお喋りすることが一番楽しみなんですけれど、機会が激減して寂しいです。」
「大学の学食が閉まったままなんですよ。」
「芸大(京都市立芸術大学)に勤めるようになってびっくりしたひとつは、みんな驚くほどよく食べることです。女性率が高いのに、油ものやボリュームあるメニューが多い。大学食堂が閉じているのは、学生たちのお腹にとって苦しいことだなぁ。」

学生たちの現状に想いを寄せながら、鷲田さんは続けます。

「食事って、人類が昔からしていることです。猿はその場で食べますが、人間は家族や仲間の元に持って帰ってきて食べていました。しかし、ファーストフードが完備され、一人で食べることが当たり前になってきたよね。食事を済ます、という言い方になっていることを寂しく感じます。」
「それをコロナがさらに加速させたように感じますね。そんな状況の今、ともに食事をすることの効果について、話したいと思っています。鷲田さんの学生の頃はどんな食事でしたか?」

「大学の頃はお金が無いので、昼は大学食堂で、夜は下宿で友達と鍋を食べたりしましたね。私は本当に喋るのが好きで、空いている時間帯のときは大学食堂で、つい、調理のおばさんとお喋りするんです。それで、おばちゃんと仲良くなると、チャーシューを1枚サービスでつけてくれたりして。そういった得意技を得ていました。一人でラーメン屋いっても、昔からカウンターに座って、カウンター越しに話すのが好き。誰かに作ってもらっているという感覚があると美味しいよね。」
「僕もカウンターに座るのが好きなんだけど、今茹でているのは僕のかな?とか色々見ちゃいます。」

「今、ラーメン屋で誰かに作ってもらっているという感覚があると美味しいと感じるという話があったけれど、面白い話を思い出しました。霜山徳爾さんという精神医学の先生の[人間の限界]という著書があるのですが、そこに、赤ちゃんがお腹減っているはずなのに、哺乳瓶の温度が0.5度違うだけで飲まないという話があるんです。
それは何故かというと、今日のお母さんの気持ちが自分に向いていないということを感じて、抗議の意味で飲まないんですって。人間ってすごいなぁと思います。作ってもらってる実感があると美味しいというのは、乳飲み子から実感があるんだなと。温かいものが食べられたときって、本当に皆笑顔になる。赤ちゃんが温かいおっぱいを飲むときのプリミティブな喜びは、死ぬときまで続くんです。」

「食」を一緒にすることの大切さについて話す中で、鷲田さんが「あっ」となにかに気が付いたように、表情を変えました。

「食の役割について、危ないと思うこともあります。過去、ドイツのアイントップで大規模な炊き出し運動がありました。一つの大きな鍋に色々な食材を入れて、食料のない人に配る活動です。ヒトラーも政治家も、皆一緒に参加していました。炊き出しは大切なボランティア活動ですが、食が絡むと、動員装置という裏の意味になってしまう可能性も現れてくるので、気をつけなければいけません。
食べるって怖いことでもあります。食の権利を握るということは、他人の生存権利を握っているということでもあります。飯くわさんぞ!は立派な脅しになりますよね。
貧困など食の問題は、支え合いが大切ですが、同時に暴力的な側面もありえます。皆、食糧難になっていく時代になったときは、特に気をつけなければいけません。」

催す側の意識で、素晴らしい効果を出すことにも、暴力的で支配的な効果を出すこともできる「食」すという行為の重要さを、改めて知ることになりました。
最後に会場からの質問に答えて、鷲田さんは和やかな表情でオンライン通信から退出されました。

「食を扱う上で気をつける点など、非常に示唆に富んだ内容でした。私も、食の場の設えをするときには意識をしなければならないと思いました。次回は、今回の古都祝奈良美術プログラム招待アーティストEAT&ART TAROさんと美術プログラムディレクター西尾美也さんと開催します。これ以上、コロナが猛威を振るわないことを願います。」

オンラインを通して世界中からゲストを呼べる、そんな新しい可能性を感じながら、2回目のグリーン・マウンテン・カレッジは終了しました。

※12月13日のグリーン・マウンテン・カレッジは、奈良市の新型コロナウイルス感染症の警戒レベルがステージ3の感染急増段階となったことを受けて、中止となりました。ゲストによるトークを録画配信しています。

 

文:飯村有加(一般社団法人はなまる)
写真:奈良市アートプロジェクト実行委員会事務局