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[レポート] グリーン・マウンテン・カレッジ 令和3年度ダイジェスト10/2,12/4,12/18 開催 

2022.05.30
グリーンマウンテンカレッジ

焚き火を囲み、ゲストと校長小山田徹さんのトーク、そして参加者との対話が育む学び合いの場、グリーン・マウンテン・カレッジ。

令和3年度は10月と12月に、ならまちセンター芝生広場で全3回を開校しました。

新型コロナウイルス感染拡大防止のためディスタンスが叫ばれる中、リアルな他者との関係性について繰り広げられたトークのダイジェスト・レポートです。

 


 

第1回「手を伸ばす」ゲスト:井上絵美/キャリアカウンセラー

10月2日(土)、この週の初めにはコロナ・デルタ株感染による奈良市特別警戒警報も解除され、少し落ち着いた気分が広がる秋の夜「久しぶりの焚き火です」と笑顔の小山田校長の言葉から、最初の「学び合い」はスタートしました。

 

ゲストは奈良若者サポートステーションのキャリアカウンセラー井上絵美さん。まずは若者サポートステーションについてお聞きします。

「厚生労働省の委託を受けて全国に展開。奈良には2ヵ所あって対象は15歳から49歳までの方。個別にカウンセラーが付く伴走型支援で、面談やセミナー、ボランティア活動などを行いながら、その方が求人への応募を目指すサポートをします」

サポートステーションには臨床心理士の方もいて、就労支援だけではなく、コミュニケーションの不安なども相談できるとのこと。このコロナ禍で、人と接する機会が減って不安を感じるとの相談も増えてきていると井上さんは話します。

 

その井上絵美さん、キャリアカウンセラーとなったのは今年の4月から。以前はライブハウスに勤務し、そこで出会ったアルバイト生活を続ける10代20代の若者たちの相談に応えたいと、勉強をして国家資格を取ったそうです。

 

次に話は労働について。小山田校長が自身の体験から得た学びを語ります。

「自分が働きかけるという労働の在り方に、対価の代わりの何かをもらえるという関係の喜びがあって。働きかけで自分の生活が豊かになるという感覚が出てから、社会での自分の存在のさせ方が変わった。学生にも言っているが、就職が労働ちゃうでと。でもお金はいるよねと。お金と生活を立てるためのものとは、そんなにカチッと組み合わさったものじゃなくても豊かな生活が見つかるのではないかと」

井上さんからも、相談者は正社員を目指す方ばかりではないとの現状が語られますが、そこには就職氷河期世代の問題や、非正規雇用の問題など、また別の側面もあります。

 

個人の努力だけではどうにもならないことの数々…

最後に井上さんからは、

「今日のタイトルは“手を伸ばす”ですが、私たちのような相談する場所に手を伸ばしてください。コミュニティーでも行政機関でも、手を伸ばす場所を色々持つことが大事だと思います。コロナで一人でおられる方も多いと思いますが、外への繋がりを持つことを意識された方がいいんじゃないでしょうか」

 

そして伸ばされた手をちゃんと握ることができるのか…

小山田校長から、

「大丈夫よあんた!って叩いてくれる人が周りに沢山いてくれたらいいね。うっとうしい時もあるけど」

トークの終わり、劇団で演出家をしていたこともあるというユニークな経歴の井上さんに小山田校長から期待を込めた提案が。

「カウンセラーのいるライブハウスってすごく魅力的だと思うので、将来考えていただけたら」

「そうですね!」

と明るく笑う井上さん、本当に実現したら素敵ですね!

 


 

第2回「手をあげる」ゲスト:西川 勝/臨床哲学プレイヤー

2回目の焚き火は12月4日(土)、テーマは“手をあげる”です。

 

ゲストの西川さんは大阪に生まれ、大学中退後、精神病院の看護助手になって看護学校で学び、33歳で看護師免許を取得されました。

 

その後、血液透析が必要な方々の看護を担っていた時、透析を止めたいという患者さんに出会い、医療看護だけでは患者さんに真正面から向き合えないと、西川さんは大阪大学で臨床哲学をされていた鷲田清一さんに連絡を取ります。

そこで鷲田さんからは、看護の現場の紆余曲折を話してほしいと言われます。が、しかし…

「理解がなければケアできないという看護教育の方針と、理解というものを前提にすると人と人とは関われないという哲学とは噛み合わなかった」

 

更に話は“対話”について。

西川さんは、本当の“対話”とは、“対話”後に両者ともに変わっているものだと言います。そして宙ぶらりんのところに居ても孤独じゃないと思える相手が本当の“対話”の相手であると話します。

小山田校長からも、持続的に“対話”する場を持ち続けることが大事で、一つの考え方で世の中を変えようというのは逆に暴力でもあるとの話が。

西川さんはかつて認知症ケアの専門家でもあった経験から、ケアの暴力性という言葉で、ものを言えない患者さんの見ているものは何か、それを理解していないととんでもない思い込みでケアをしてしまうのではないかと警鐘を鳴らします。それは文化交流でも同じだと。

その上で、安心して自分が自分で、他人が他人でいられる場をいかにして可能にするか、さらに共にいることが成り立つ根拠とは何なのか、と問います。

 

でも「そう簡単に答えはでない」とも。

 

答えは一つではなく、わからないことはわからないまま考え続けることが大切であり、そして“対話”すること、安易に理解したと思わないこと、そして自分が自分で、他人が他人でいられる場を可能にすること…

 

「コアな話やったね」

と小山田校長。焚き火に手をかざす参加者の皆さんも、それぞれ思いを巡らしつつ、フリートークの夜は更けていきました。

 


 

第3回「手を絡める」ゲスト:砂連尾 理/ダンサー・振付家

令和3年度最終の焚き火は12月18日(土)。雪予報が一転、美しい月夜となったこの日のテーマは“手を絡める”。ゲストは砂連尾 理(じゃれお おさむ)さん。珍しいお名前ですがご本名です。

 

ダンスは大学時代に始められたという砂連尾さん。現在は障がいのある方や認知症の方となど、様々なダンス・プロジェクトを各地で行われています。

京都府舞鶴市の老人ホームで出会った認知症の方とのプロジェクトでは、一歩踏み出すのに非常に躊躇するような方と「とつとつ」 と行うことと、舞鶴湾の形状が凸型に見えることから、『とつとつダンス』と名付けた作品を発表されました。また、認知症の方との毎回はじめましてから始まる関わり方に、毎回新しい気持ちで人と出会えるということを教えてもらったと砂連尾さんは話します。

 

次に『猿とモルターレ』という作品について。

東日本大震災後、毎月仙台に訪れていた砂連尾さんは、足を運んだ名取市閖上(ゆりあげ)の文化会館が、震災後すぐの頃400人ほどの被災者が暮らす避難所となっていたと知ります。

普段、非日常を体験しに行く劇場が、震災後は日常の場所となった事実に「複雑な思いになった」と語る砂連尾さん。そして自身が聞き手となり被災者に語ってもらった『閖上録』という映像作品をまとめ、それが後に『猿とモルターレ』というダンス作品になりました。

「salto mortale」とはイタリア語で命がけの跳躍という意味。それを変化させて、猿と、モルターレという架空のおじいさんの対話からなる作品としました。

作品の話は続きます。

小山田校長が「すごい!」と感じた砂連尾さんのある作品のある瞬間について「あの瞬間は、何かとコンタクトできた?」と訊ねます。

その作品は、薬害で40年間入院生活をされ左手がほんの少ししか動かない車いすの方との2014年の舞台公演。砂連尾さんは自分では客観的にわからないが、と前置きして、

「その方と何か踊ろうと思ってずっと前で一時間くらい動いていたんですよ。そしたらその方が、自分の動く左手を何とか使って右手を僕の体に近づけようとしてくれる。僕は片足を上げていたのですが、その足に右手をポンと触れてくれた。終わってから「私の右手が人に触れるのは50年振りです」と言ってくれました」

ダンスは古来より癒しであり、人に寄り添い大事なものと触れ合うこともある気がすると語る砂連尾さん。

 

現在大学でも教えておられる砂連尾さんは、コロナ禍でのオンライン授業について、自分のダンスを広げる上ですごく良かったと話します。

「コロナになって、舞台だけではない活動、展覧会だけではないダンスというものがもっと必要だなと感じました。大学で、ずっと画面OFFで授業に参加している学生の感想に「すごく楽しかった」とあって。もしかすると陰影がついているところにそういう人たちがもっといて、そんな見えないダンスをいかに感じ、可視化していけるか、寝ている事しか出来ない人にもちゃんとダンスはあるということを、多くの人と共有していけるような活動をもっとしてきたいと思っています」

触れ合えないコロナ禍で、ダンスという身体表現が持つ身体を越えた可能性に改めて気付いたという砂連尾さん。

古来より人類が行ってきた焚き火。同じくプリミティブなものとしてのダンス。

「今年最後にふさわしいトークになったと思います」

小山田校長の締めの言葉で、沢山の学びを皆さんと共有した令和3年度のグリーン・マウンテン・カレッジは終了となりました。