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[インタビュー]田上豊(「ならのまちと創る演劇」プログラムディレクター)――演出家・劇作家として見つめる「ならのまち」

2020.11.30
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「東アジア文化都市2016奈良市」舞台芸術プログラムや、奈良市アートプロジェクト「古都祝奈良」で中高生と共に演劇を創り続けてきた田上豊。コロナ禍が続く2020年に奈良で新たな創作プロジェクト「ならのまちと創る演劇」を立ち上げたその想いとは。

聞き手:奈良市アートプロジェクト実行委員会事務局


PROFILE
田上豊
劇作家・演出家。田上パル主宰。富士見市民文化会館キラリふじみ芸術監督。尚美学園大学非常勤講師。1983 年熊本県生まれ。桜美林大学文学部総合文化学科卒業。在学中に劇団「田上パル」を結成。方言を多用し、軽快なテンポと遊び心満載の演出で「揺らぐ人間像やその集団」を描き出すのを得意とする。中高生や大学生との創作、市民劇団や公共ホール事業への書き下ろしなど、様々な形で活動を展開。創作型から体験型、育成講座まで幅広くワークショップも行う。「古都祝奈良」青少年と創る演劇プログラムディレクター、劇団青年団演出部所属。


▼「食」はどんな時代でも私たちから切り離すことはできないもの


--今年の「古都祝奈良」の演劇プログラムでは「食」をコンセプトにしたプロジェクトがスタートします。今回、「食」をテーマにしたのは何故でしょうか?

田上豊(以下、田上):美術プログラムが「食」に関わるものと聞いた際に、「食」はどんな時代でも私たちの生活から切り離すことはできない、文化的な要素があるもので、そういった角度から「奈良」を切り取ってみても面白いプロジェクトになるはずだと思いました。


--コロナ禍の中、「食」のあり方も変わってきていると思います。田上さん自身が感じていることはありますか?

田上:あまり外食することはないのですけど、外食している人を見ると、一人ひとり、衝立を隔てて食べなきゃいけなくなったり、食のなかでのコミュニケーション、喋ったりすることが、かなり制限されたなあと感じることは多いですね。


--「何を食べるか」だけでなく、「誰と食べるか」って大事なことですよね。

田上:そうなんですよね。それも含めて、総合的においしく感じているんだなって気づきましたね。「誰と、どんな話をしながら食べるか」ってことが意外と重要で。食べるだけに集中すると、まあ「食べる」という行為そのものには意識がいくんですが…。


--田上さんは2016年から毎年12月に1か月くらい奈良に滞在しておられます。その中で「これって奈良だよね」という食があれば。

田上:奈良に来て必ず食べているのは、鶏。大和地鶏は毎年必ず頂いていますね。結構、同じ店に行くことが多いんですけど、店員さんが「今年の鶏はこんな感じで」というお話をしてくれるんですが、それを聞くと「奈良に来たな」と感じています。

▼もう一回、人を通して奈良と出会うというような感触を


--これまで「青少年と創る演劇」で中高生と演劇創作をしていただいていました。今回の「ならのまちと創る演劇」は奈良で暮らす人々の「食」のエピソードをもとに脚本をつくるという企画です。

田上:奈良に毎年滞在して今年で5年目になります。滞在中はよく街へ繰り出したりしているんですが、そこで色んな人と出会ったりするなかで、中高生、ティーンエイジャーの人だけでなく色んな世代の人とクリエイションをするのも、街の風土や雰囲気を表現できて面白くなるんじゃないかなって、毎年ずっと思っていました。
今年は新型コロナということもあり、いつもと違う企画を検討してもいいと聞いた際に、今年しかできないかもしれないと思って、今回の企画を決めました。
今までより出演者の年齢層が広がるので、すべての人に共通するテーマという点で「食」というのはぴったりかなと思っています。

 

--今回、約20件のエピソードの応募がありました。奈良の人たちのエピソード、すべて読まれてどんな印象を受けましたか?

田上:食べ物自体に関することと、それを食べている時の何かしらの思い出とセットになっているものが多かったですね。それを読んで思い出とかエピソードとかは、その時何をしていたかが大事なんだなと思って。今回は20くらいのエピソードでしたが、もっとごまんとあるんだろうなって。
奈良らしさを感じたのは、今回作品にするエピソードなんですけど、奈良の皆さんは「誇って外に出す名産品の多いところじゃないよ」と仰るんですね。僕なんかは遠くから来ているから、十分あるような気がするんですよ。外と中との温度差みたいなところがあって(笑)なんて言えばいいのかな、奥ゆかしい感じがしますね。もう少し自信もっていいかなと、漬物とかも美味しいですし!


--今回、3つの短編作品をつくっていただきますが、各エピソードを選ばれた理由などありますか?

田上:まあ一番は、読んでみて直感として普通に劇にしたら面白そうだなってものをあえて選びました。劇にする上でリサーチが必要で、こちらが追いかけていかなければならないような、そういった吸引力があるというところをポイントに選んだ記憶があります。


--これまで「青少年と創る演劇」で上演されてきた作品との違いはありますか?

田上:年齢層が広がるというのは、どうしても作品に幅が出てくるので、ここは自分自身も楽しみで仕方がないという感じです。これから出演者を募集するので、どういう方に出ていただけるか未知数ですけれど、たくさんの人と出会いたいというのは改め思います。そういう意味では、中高生以外の層も募集するというのは、すごく僕の中で意義が大きいというか、もう一回、人を通して奈良と出会い直すというような、そういう感触があります。


--今回の見どころはどういうところになるでしょう?

田上:まだ出来上がってないので、なんとも言えないですけれど(笑)「ああ!わかるわかる!これが奈良のいいところだよね」って思ってもらえるようなものを目指してみようかなと思います。「奈良らしさ」っていうとちょっと漠然としていますけど、奈良の皆さんにとって普通の風景というものも、外から見ると意外と斬新で新しいものだよっていうことを伝えたいなという思いもあるので、そういう所もクリエイションで色々話をしながら、外から来た僕と奈良で暮らす皆さんとで、色々とすり合わせていけたら面白いなって思います。


▼コロナ禍は、存在価値みたいなものや自分自身を見つめなおさせられる時間


--新型コロナウイルス感染症の流行により様ざまな分野で影響が出ています。演劇分野への影響は大きかったかと思いますが、どのような影響が、そしてどのように乗り越えていくか、お話をお伺いできますか?

田上:舞台芸術は本当に打撃を喰らいました。ウイルスにこんなに弱い業界なんだなっていうか…。僕は演劇を生業にしているので、まるまる否定されたような感じで存在価値みたいなものや自分自身を見つめなおさせられるような時間が少なからずまだ続いています。これまで「古都祝奈良」のなかで継続してきた演劇プログラムですが、コロナによって今年度の奈良の創作がなくなっちゃったらどうしようという不安はあって、そのなかで踏みとどまって事業をやるって言っていただいたことは、すごく勇気をもらえたなって思います。
感染症に対して、最大限のケアをしつつ、節度を守ったうえで、「やる」ということをはっきりと意思表示されたということは、僕の中でも結構大きい支えになりましたね。「今年も奈良に行ける」と。

 

--奈良でのクリエイションを楽しみにしています。ありがとうございました。

田上:ありがとうございました。


ならのまちと創る演劇

[上演作品]
「おっぱい饅頭」「うまいもののないところ」「ぜんざいマラソン」

[公演情報]
2020年12月26日(土)開演14:00 上演時間:1時間(予定) ※開場13:00
会場:ならまちセンター 市民ホール
入場無料/要申込

[申込方法]
公式web予約専用フォームにて受付。12月16日(水)締切。
※残席状況により当日券を会場にて発行。詳しくは、公式webで。