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[レポート] ならまちワンダリング「ラボ」
人間の思考や学びに重要な「迷う・彷徨(さまよ)う」環境を日常の中に創っていく「ならまちワンダリング」。2024年11月の最終週に『ワンダリングウィーク』と銘打って、「ゼミ」「ラボ」、そして「座学」を開催。子どもから大人まで、見て・触って・動いて・感じて・考えながらワンダリングする場を開きました。
「ラボ」
迷う・彷徨うワンダリングの中で、研究を深めたり、実験したり、制作したりするのが「ラボ」。ならまちセンター1階に2024年8月に誕生した、コドモもオトナも集う古都奈良の新しい場所、コトナラボを中心に、参加アーティストが5つのワークショップを開催。実験的な遊びを展開しました。
[コトナラボをつくる]藤 浩志
11月28日(木)-12月1日(日)
美術家 藤浩志さんがゆるっと創作するデモンストレーションを行いました。奈良市内の住宅街にある公園で、伸び過ぎたために刈り取られた桜の枝。廃材となり捨てられる運命だった太細さまざまな枝を、藤さんが巧みに組み合わせていきます。
(撮影:前川俊介)
そして出来上がったのは……今にも動き出しそうな立派な牡鹿! エントランスのあちこちで子どもたちの人気をさらっているカラフルなヘラジカたちも藤さんの作品ですが、今回の鹿は、奈良公園で鹿せんべいを食べている鹿たちと同じ日本鹿のたたずまい。まさに、奈良の桜で出来た奈良の鹿です!
同時に桜の枝のツリーも出来上がり、早速飾り付けが施され、エントランスを賑やかに彩りました。
[ならまちセノグラフィーワークショップ]杉山 至
11月23日(土)・24日(日)
セノグラフィーとは舞台美術のこと。舞台美術家として幅広く活躍されている杉山至さんによるワークショップは、舞台を街に置き換えて、セノグラフィーの視点で街を肌で感じ、参加者同士のコミュニケーションを通して最後に作品を創り上げるプログラムです。
一日目、ならまちセンターに集まった参加者は4名。まずは杉山さんの講義です。ホモサピエンスについてや脳の仕組みなど、話は多岐にわたります。そして一つ目のワークショップ。目隠しをして鉛筆を削り頭の中のイメージを形にする体験後、その感想を述べ合います。
次に地図を片手にならまち散策です。約3時間、それぞれ気になる地点をスケッチして、ならまちセンターに戻ります。
そしてスケッチを見せながら、なぜそこが気になったかなどを話し合います。何ヵ所か場所を変えてスケッチしても似通った風景ばかりだったり、他の人と同じ場所を歩いていても視点が全く違ったり、スケッチには本人も気付かなかったこだわりが出ます。
杉山さんより、その一つ一つに感想や思わぬ指摘が語られました。
例えば、参加者の一人が描いた三叉路にたたずむお地蔵さんとカーブミラー。注意を促すという意味で、この2つはこの場所で時間を超えて同じ働きをしているとの話がありました。
見過ごしてしまうような風景の中にも、思わぬストーリーが隠れていることに気付かされます。明日は参加者がスケッチした面白い風景を皆で見に行くことを確認して、一日目は終了しました。
二日目、今日もまずは講義から。東洋の風水や西洋のゲニウス・ロキ(場所の精霊)の話など、建築家でもある杉山さんの講義は、土地と住む人との関わりなどにも及びます。セノグラフィーを日本の言葉に置き換えると「景」ではないかとの視点から、ならまちの中の「景」を発見しに、参加者は再び街歩きへ。
一日目に見つけた面白い風景に立ち寄りながらたどり着いた場所は「史跡 元興寺小塔院跡」。住宅やお店が建ち並ぶ一角に、鬱蒼と生い茂る木々の中、小さなお堂がひっそりとあるだけのこの場所は、奈良時代から歴史を重ねる史跡ですが、地元の人が普通に行き来する抜け道にもなっています。
そしていよいよワークショップも仕上げです。ここを最終舞台として、参加者全員で即興劇を演じることが決まりました。4人の参加者それぞれの役柄を決定。大筋としては若いカップルがならまち観光に訪れて、知り合いに会い、一緒に向かった元興寺小塔跡で不思議な男に出会って……
世界遺産・元興寺に伝わる鬼・ガゴゼの伝説をモチーフに4人が熱演!愉快な喜劇に仕上がりました。
セノグラフィーの視点で観ることで、見慣れた風景の中にも新たな発見が沢山あった2日間。興味の尽きないワークショップでした。
(セノグラフィーWS 撮影:前川俊介)
[からだ・あそぶ・よろこぶ]安藤隆一郎×飯田惣一郎(特別協力:佐藤元彦)
11月30日(土)・12月1日(日)
(撮影:前川俊介)
かつて暮らしの中にあった民具を、現代のトレーニング道具として蘇らせ、身体を育む遊びに変換するこのプログラム、建材などにつかう丸太の表面をマサカリなどで削る作業=
“丸太はつり”を、「はつり打ち」という遊びに変換して実施しました。丸太に乗ってマサカリに見立てた道具をはつりの要領で振り、木の玉を打って、ボーリングのピンのように立てた木柱を倒します。
(撮影:前川俊介)
実施の2日間、芝生広場で行われた「はつり打ち」には子どもから大人まで沢山の方が体験。木柱ピンは簡単そうに見えてなかなか倒せません。
(撮影:前川俊介)
安藤さんや飯田さんから、身体の動きを道具と一体化させることがポイントとの助言を受け、無駄に力まず振り子のように打つと、ストライク!
傍では実際にヒノキの丸太をはつるデモンストレーションも行われ、こちらには年配者や外国人観光客の方が、熱心にはつり体験をされていました。
(撮影:前川俊介)
[偶然と選択の作詩ラボ]風間勇助
11月16日(土)、24日(日)、30日(土)、12月1日(日)
新聞の見出しの単語や広告の文節を切り抜いた紙片をつかみ取り、偶然手にした中から自由に選択して文を組み立て、詩を創作するプログラムです。
偶然が作り出す、意味不明の言葉の羅列から浮かび上がる意味深な文章に、思わず唸ることもしばしば。参加の手軽さから幅広い年代の方が体験されていました。
(撮影:前川俊介)
(撮影:前川俊介)
出来上がった詩は色画用紙に貼られ吊り下げられます。
コトナラボを賑やかに彩る数々の詩は、読み手の心模様と共鳴したり、世相をするどく突いていたり、興味の尽きない創作体験となりました。
(撮影:前川俊介)
[にぎにぎ&とぎとぎ つみき部]小山田 徹×ブブ・ド・ラ・マドレーヌ
11月23日(土)-12月1日(日)
(撮影:前川俊介)
会期中、コトナラボには子ども達がひっきりなしにやって来て、思い思いにガリガリ、ゴシゴシ、ガチャガチャ……
(撮影:前川俊介)
(撮影:前川俊介)
木片をひたすらやすりで磨いてみたり、つみきを高く積み上げたり、大きな石を持ち上げたり、拡大鏡で覗いたり。
ここでは決まった遊び方はありません。皆自由に、好きなように楽しみます。
そのうち、隣で様子を見ていたお父さんも一緒にゴシゴシ。お母さんも思わずゴシゴシ。
(撮影:前川俊介)
つるっつるの木片がゴロゴロ仕上がりました。
会期中は多少の雨もありながらも比較的お天気に恵まれ、特にウィーク最終の11月30日(土)と12月1日(日)は、朝から沢山の方に、ならまちセンターにお出でいただくことができました。
ただひたすら磨いたり、道具と一体になってはつったり、意味を求めず切り貼りしたり――
いつも来ているいつもの場所で、いつもと違った遊びを通じて、
彷徨(さまよ)い、まどうワンダリング体験をお楽しみいただけていれば嬉しいです。
ご参加、ありがとうございました!
(撮影:前川俊介)
<開催概要>
ならまちワンダリング「ラボ」
開催:2024年11月23日(土・祝)―12月1日(日)
場所:奈良市ならまちセンター/コトナラボ、1階エントランス、芝生広場
[参加アーティスト](順不同)
藤 浩志
杉山 至
安藤隆一郎
飯田惣一郎
(佐藤元彦:「からだ・あそぶ・よろこぶ」特別協力)
風間勇助
小山田 徹
ブブ・ド・ラ・マドレーヌ
[運営スタッフ]
プログラムディレクター:藤 浩志
制作・運営:合同会社CHISOU