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[レポート] 1/26開催 グリーン・マウンテン・カレッジ「学び合い―他者の思考を知る『シェアリング』」

2020.02.18
グリーンマウンテンカレッジ

事前の雨予報から一転、この時期の奈良としては比較的暖かい夜となったこの日、今年度最終回を迎えたグリーン・マウンテン・カレッジは、いつもとはちょっと違った風景の中ではじまりました。
会場のならまちセンター芝生広場には、ゲストのアーティスト北澤潤さんと「古都祝奈良」プログラムディレクター西尾美也さん、そして小山田校長。3人の後ろにはインドネシアの乗り物である三輪人力車が6台並んでいます。北澤さんの作品「ロスト・ターミナル」のベチャたちです。

1月10日より2月1日まで奈良の街なかで、アーティスト・イン・レジデンス&美術展示として「You are Me」を展開する北澤さん。トークはまず小山田校長が西尾さんに、今回北澤さんを招へいした思いを伺いました。

これまでの「古都祝奈良」での企画を顧みながら、1年目が“もの”としてわかりやすいアートプロジェクト、2年目が“こと”としてのアートプロジェクト、そして今年度は“もの”としての展開を見せながら“こと”としてのコミュニケーションを生みだす北澤さんにお願いしたと語る西尾さん。

次に北澤さんへ、現在拠点としているインドネシアとの関わりのきっかけについて尋ねました。
「国際交流基金が東南アジアにアーティストを派遣するプログラムに選ばれたこと、人との出会いなどを通じて自分の中にインドネシアに対する小さな引っ掛かりがあったこと、そして決定打は、2015年のスラウェシ島の洞窟壁画発見のニュースでした」と北澤さん。
ここで小山田校長がニンマリ。実は校長、日本洞窟学会会員です。話が更に洞窟の奥へと進みそうになるところを「You are Me」に戻して、北澤さんが今回何を奈良に持ち込もうとしたのかと質問しました。

北澤さんは今回初めて作品に包括的なタイトルを付けたと語り、伝えたかったのは、「You are Me」=「あなたはわたし」という考え方。
そもそも二者は違う前提ですが、生きていくための考え方として、異質な乗り物や市場を見た時どんな風に思いますか? ということが、インドネシアで暮らす「僕自身の大問題でした」と言います。

北澤さんの個々の作品は、例えばベチャに乗る身体性、市場でものを分け合うシェア意識、屋台でグダグダする時間感覚など、インドネシアで感じたカルチャーショックがきっかけになっており、西尾さんも同様に、かつて2年間滞在したケニアで感じた身体性や時間感覚の違いへの興味から活動が広がったと話しました。
お二人と世代の違う小山田校長からは、お二人が感じたカルチャーショックや興味に対して既視感という言葉が出ました。実はそれは世界にも過去の日本にも既にあるもので、その中で、今の日本で行うアートプロジェクトとは “引き算” してみせること、“元々その地域が持っていたものを掘り起こすこと” なのではと話は続きました。

またベチャについて、参加者のお一人から、かつて勤めていたジャカルタの日本人学校で、運動会の借り物競争でこれを走らせ大騒動になった話が愉快に語られ、会場が笑いに包まれる一幕も。

この日のカレッジのテーマ「シェアリング」について、校長の「物品や空間だけじゃなく、本当は個々の能力を(ビジネスの中だけでなく)、やりとり出来るのが望ましい形だと思う」との話に、「身体感覚や時間感覚など、知らないものを得るというより、自分の中に元々ある感覚をシェアしようって訴えているのが今回の作品たちです」と北澤さん。

最後に、小山田校長から今後について訊かれたお二人。西尾さんは「古都祝奈良」について「イリーガルをリーガルに実現していく。実現は面倒だがそれをやることで風穴が開けられるのだと、参加した人がこんな風穴を開けてみたいって思ってもらえたら」と話し、「鑑賞者が表現者になり得るような企画を考えていきたい」との思いを語られました。
そして北澤さんは「今回インドネシアから人を呼んだり、5、6個のプロジェクトを同時にやったりと、自分にとって結構チャレンジングで、燃焼しました」と笑いを誘いながら、今後は「ダブル・ローカリティ、デュアル・ローカリティという言葉を手掛かりに、どちらをも乗り越える別の世界、新しい普遍性を作るプロジェクトをやりたい」と、次なる構想について教えてくださいました。

北澤さんや西尾さんが「色んな文化の中に飛び込み、自分の体で何かを獲得して、それを思考するというのは、眺めていて勇気が湧くね。なんか嬉しいです」と顔をほころばせる小山田校長。終わりは今年度のグリーン・マウンテン・カレッジ全4回の感謝と、「気候にも左右されるし、たまたま集まった人の雰囲気にもよるし、そういうザラつき、でこぼこを感じながら色んな人の話を聞くことは重要なことかなと思っています」との言葉で、最終回のトークは終了しました。

参加者は北澤さんのおすそわけのインドネシアの温かい飲み物をすすりながら、今年度最後のたき火と語らいのひとときを、じっくり味わいました。
 

写真:山口健一郎