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[レポート] グリーン・マウンテン・カレッジ 令和4年度ダイジェスト 11/12,11/26,12/3 開催 

2023.03.27
グリーンマウンテンカレッジ

焚き火を囲み、ゲストと校長小山田徹さんのトーク、そして参加者との対話が育む学び合いの場、グリーン・マウンテン・カレッジ。

令和4年度は11月と12月に、ならまちセンター芝生広場で全3回を開校しました。

新型コロナウイルス下3年目の晩秋、ゆるやかにあつまった参加者が、様々な「眼」を持つゲストの知見に触れたトークのダイジェスト・レポートです。

 


 

第1回「複眼」 ゲスト:伊達伸明/美術家・京都芸術大学教授

11月12日(土)今年も猿沢池の南、ならまちセンター芝生広場にティピーテントが立ち上がり、パチパチという焚き火の音を合図に、最初の「学び合い」が始まりました。

 

ゲストの伊達伸明さんと小山田校長は旧知の仲。まずは参加者へ、伊達さんの自己紹介から。

京都市立芸術大学で漆工を学び、大学院を修了後、伊達さんの興味は様々な劣化したものへと向かいます。建材の波板の錆びた風情に豊かな表情を見たり、文字が抜け落ちた看板を脱落文字と名付けたり…。そんな独特の目線を持ったきっかけは、学生時代に手がけていた漆工にあると伊達さんは言います。

「漆工は美しく神々しすぎて、器を作っているのに使えなくなることに疑問を感じて、その反動がありました」

 

活動は次に『建造物ウクレレ化保存計画』へ。

その名の通り、壊される建物からその痕跡をはぎ取ってウクレレを作るというプロジェクトの出発点は、伊達さんのお父さんの家が壊される時に、自分の作品として何かを残すことが出来なかったという後悔でした。

そして伊達さんは2000年、京都市の元明倫小学校の校舎を改修して京都芸術センターが開設された時に、アーティスト・イン・レジデンスの作品制作として、校舎の廃材を使った最初の作品を制作します。実際に演奏することも出来るウクレレです。

「当時ウクレレが欲しくてね(笑)。劣化物大好きの目線のクセと、明倫小学校の廃材、これでうまく作れたら僕がやりたかったことが1つにまとまるなと」

 

これ以降、様々な物件のウクレレ化計画が進みます。お寺や住宅、銭湯など、どれも元の建物の個性が活きたウクレレです。

「建物の持ち主に根掘り葉掘り、些末な事ばかり訊いて行くと、記憶のスイッチが押されてババババって返ってくることがある。その返りの大きい部材を中心に確保して制作します」

伊達さんの聞取り力や蒐集力は、また次の活動へと繋がります。

仙台市のせんだいマチナカアートで行われた『亜炭香古学-足元の仙台を掘りおこす』というプロジェクト。仙台市の地下に多く埋蔵し、昭和20年代頃まで盛んに使われた亜炭と、それを使った埋もれ木細工について、人々の記憶のアーカイブを『亜炭香報』と名付けた新聞に掲載する形で仙台の人々に還元しました。

 

校長は伊達さんの活動を今回のテーマ「複眼」になぞらえて、

「集中的にディテールを見ている瞬間と、それを選ぶまでの間はすごく広い視野と思考でものを眺めている感じ」と言います。

伊達さん自身も、

「知り得た情報を一旦持ち帰って、昔触ったことのある材料とか、他の人の考え方で印象に残っていることとか、無理やりくっつけているうちにボンっと出る。赤い糸やなと思うことがありますね。まず、ザーッと見る。無理矢理くっつける…そのやり方が「複眼」ということになるのかな」

時に笑いも交え、2人の美術家が醸す雰囲気そのままに、第1回目のグリーン・マウンテン・カレッジは穏やかに終了となりました。

 


 

第2回「複眼」 ゲスト:会田大也ミュージアムエデュケーター、山口情報芸術センター[YCAM]アーティスティック・ディレクター

11月26日(土)第2回が開校。奈良公園の木々は葉を落とし、日の入り時間も随分と早まりました。

 

ゲストは今年度、古都祝奈良クリエイション・プログラムで奈良市役所東棟屋上に『コロガル公園テラス』を展開中の、会田大也さん。会田さんの所属するYCAMで活動経験のある小山田校長とは18年振りの再会でした。

 

話は、子どもたちが自然と誘われる『コロガル公園』のはじまりについて。

自主学習が出来る場として、メディアとフィジカルが分け隔てなく遊びの環境に存在する公園を創りたいと考えた会田さんは、まず各地の公園をリサーチします。その中で会田さんは、遊びの3つの原理「重力と戯れること」「時間・速度の変化」「リモートコントロール」を見付けます。それら原理を埋め込んだのが『コロガル公園』。2012年に誕生しました。

「コロガル公園テラス」(2022.10.15-11.27 奈良市役所東棟屋上)

形状はスケードボードパークを参考に、発想の源はフランスの建築家クロード・パランの著書『斜めにのびる建築』への共感があったと会田さん。

「合理性や効率で作られる環境だけでは、人間の感覚は物足らなく感じるのではないか、そんな感覚に追い付いていないのが現代社会ではないかと」

それを受けて、不便益という学問の話を引き合いに、意図的に不便を再びデザインしなければいけない時代かもしれないね、と校長。

 

そして、今日のテーマ「裸眼」について。

会田さんから、昨年行ったプログラムでの出来事が語られます。

あるアーティストの方に誘われてYCAMで自閉症や学習障害の子どもたちの支援プログラムを行った時のこと。三脚にiPadをセットして参加者に渡し、普段散歩しているところや気になるところを撮影して簡単に編集してもらったところ、参加者の保護者の方から「うちの子が散歩の途中いつも立ち止まって見ていたのはこれだったんですね」との感想が寄せられたとのエピソードです。

芸術の存在とは、他者と出会うためにあると定義するとすごく腑に落ちると言う会田さん。

「裸眼でアートを見る時には、他者と出会うことをやっているというように見ないと、見えないことがいっぱいあるなと感じました」

と続けました。

 

校長から最後に、

「子どもたちは社会が用意する価値観と無縁の状態で世界を捉える奇跡の瞬間というのが沢山あるんだろうなと。これは私たち大人が創り上げる社会が、どういうものを準備するのかということと深く繋がっていると思う」

会田さんの取り組みを「すごく重要」としながら、今回来ていただくことが実現して良かったと感想が述べられると会田さんは、

「また奈良でコロガル公園が出来たら嬉しいです」

と笑顔で応じました。

トークの間も、ティピーテントの周りを駆け回る子どもたちの笑い声が響きます。

子どもたちの未来を照らす場が、もっともっと広がっていきますように。

その為にはもう一度、私たち大人が「裸眼」を取り戻す必要があるのかもしれません。

 


 

第3回「心眼」 ゲスト:藤原辰史/歴史学者、京都大学人文科学研究所准教授

12月3日(土)ライトアップされた興福寺五重塔を北にのぞむ芝生広場に、焚き火の匂いが漂います。第3回、今年度最後の学び合いの開校です。

 

ゲストは歴史学者の藤原辰史さん。超多忙のスケジュールの中今回お越しいただくことが叶いました。「奈良は大好き」と言ってくださる藤原さんの、まずは自己紹介です。

「京都大学で歴史学を教えていて、「食」を通じて歴史学、あるいはこの社会を捉え直すということをやっています。根源は家庭科が一番大事だなと思っていて、家庭科を今の5倍に増やす運動を1人ではじめて。衣食住を中心にものを考えられたらなと思っています」

 

著書の『縁食論』について、本を読んだ校長と意気投合したきっかけと合わせて話されます。

「食べ物があることによって、色んなしがらみを越えて人が集まる可能性があるよね、という本なんですが、でもそこで全く火やアートの話をしていなかった。火は囲んで集まるだけで自然と会話が生まれる。じゃあ火と食を合わせたら面白いよねと」

 

話は歴史学を志されたきっかけにも。

「大学3年の時にナチス・ドイツの本を読むゼミで、ナチスは食料自給率UPを目指し、自然保護とか動物保護とかエコロジカルなことまで目指していたと知りました。僕は島根県の山奥の農家の出身で、日本の農業がいかにないがしろにされてきたかを身に染みて感じていたから、絶対許せないナチスがそういうことをやっていたことにすごく混乱して、それでちゃんと歴史を学んでやろうと思ったんです」

最初は農業政策を調べていた藤原さん、後に加えてナチスの食についても調べはじめます。

「ナチスは実に巧みに食を政策に取り込みました。ドイツにアイントップという安価な鍋があって、それを皆で食べることで仲間意識を醸造し、食費の差額を募金として集めて福祉政策に使い、余ったお金を軍事費に回して軍事産業を活性化させて失業問題を解消した。人々の善意を悪用する時に、食を使ったんです」

 

そういう形ではない食のあり方を考え始めて、でも単純に、家族で食卓を囲むのを良しとする家族主義とも違うと藤原さんは話します。

「日本の農村の歴史をたどってみても共同炊事や共同保育をやっていたのに、私たちはいつの間にかすごく窮屈な家族観に捉われてしまっているのではないか。家族主義に戻るわけではなく、ナチスみたいに国民一体となって皆で食べましょうということにもならず、コミュニティーの中で食の場所を築いていくということを『縁食』と呼んでみたらどうだろうかと考えました」

次に話は近著『植物考』について。

「私たちは暮らしの中で植物的なものを失いつつあるのではないかと。植物は根をはって動かないし、種も数打ちゃ当たるって飛ばして、後はその土がどう反応するかに任せる。脳みそもないし、神経系もない。体の3/4が無くなったとしても、残り1/4で全部を復活させることが出来る。柔らかいし、ゆるやかです」

 

校長は『植物考』を読んで、謙虚さということを考えたと話します。そして最後に、

「重要なのは“ゆっくり”です。人間なんてそんなに急に変わらない。人間以外の植物などを見つめ直すことによって得られるある種の感覚を、多くの方々と共有できる世の中にもう一度戻したいなというのが今日の思いです。今年の最後に藤原さんをぜひ呼びたかったので、実現出来て本当に嬉しかった。あっという間の一時間でした」

 

「ありがとうございます。この場所最高ですね、ライトアップも月も綺麗だし」

終始笑顔の藤原さん。トークの後は、参加者の皆さんに二重三重に囲まれながら、時間いっぱいまでお話をされていました。

 

沢山の学びの種が蒔かれた令和4年度のグリーン・マウンテン・カレッジ全3回。

知的興奮の冷めやらぬ中、参加者同士互いの話も尽きぬまま、ゆるやかに閉校を迎えました。