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[レポート] 平田オリザの表現ワークショップ「わかりあえないことから」10/3開催
「例年、30人定員で熱気ムンムンなんですけれど、今年は感染症対策で募集人数を減らしました。それでも100人以上の方にご応募いただいたようです。今回は、普段とメニューを変えて実施したいと思います。」
フェイスシールドをした平田さんからの挨拶から、今年のワークショップはスタートしました。
「まずは、体を動かしたり声を出すワークショップです。お題に対する答えを、本来は大きな声でするんですが、今はしずらい状況なので小さめの声で発表しながら動き回って、仲間を見つけてチームを作ってください。では、最初は、好きな色!」
平田さんの掛け声で、参加者は席を立ち、同じ色の仲間を探します。
「鹿以外で奈良といって思い浮かべるものは?」
「今行ってみたい国は?」
次々と出されるお題に答えていくうちに、参加者の緊張はほぐれ、表情は晴れやかに。
「同じワークショップを25年以上やっていますが、教育の現場でも浸透してきました。例えば、韓国から学生が来たとき、同じワークショップをすると、考え方の違いや同じ部分がよく理解できるので、国際交流プログラムとして使っています。他には、クラス開きのときに共通点を見つけて話すきっかけにしたり、中学校高校でのアクティブ・ラーニングの導入としても活用されています。」
他にも、スポーツ界や虐待のリハビリや少年院でも取り入れられはじめられているという身体のワークショップや、カードを用いたコミュニケーションワークショップを皆で実践して、前半は終了。平田さんの柔軟なファシリテーションのもと行う身体のワークショップは、他者理解のきっかけとして、とても有意義であることを参加者は身を持って体感した様子でした。
「後半は、座学です。」
平田さんはホワイトボードに図と文字を書きながら、「他者理解」について、新型コロナウイルス感染症の今について平田さんが考えていることを、熱を込めて話されました。
「何故あの人はあんな行動を取ったのだろう?考えて、想像し、理解する。同情ではなく共感 するために、自分と共有できるポイントを探ってみること。そのために、他者を演じてみる。さも自分ごとのように演じるのが役者なので、他者理解の一歩として演劇ワークショップは有用なんですね。」
これからの時代、シンパシー(同情)ではなく、エンパシー(共感)の力を培うことが大切になってくると平田さんは話します。
「新型コロナウイルス流行では、日本は死者数が少ないのに、人心が荒廃してしまったように感じています。コロナの流行は、弱者のいない災害だったのではないでしょうか。東北大震災では、被災者の映像を見て国民は「同情」をして、たくさんの寄付をしました。しかし、コロナでは最初のクラスターが豪華客船、ホストクラブ、ライブハウスと、一見恵まれているような人たちだった。弱者である感染者に「同情」がされず、厳しい意見が飛び交いました。他者理解のツールとして、ここをつなぎとめるのが文化芸術の役割です。ヨーロッパでは、劇場は社会と繋がる教会の代わりの場所になっています。文化芸術は、社会と繋がっていくための生命維持装置なんです。」
文化芸術の必要性を訴え、平田さんのワークショップは終了しました。
人間の力の及ばないところで、世界があっという間に変容してしまうのだということを全人類が痛感したこの1年。
追い詰められて生きてきた人の苦しさ、生きづらさが浮き彫りになった1年でもありました。
「わかりあえないこと」からはじめてみる。
他者の立場になって、想像して、理解しようと試みる。
同情するのではなく、共感をして行動に移す。
文化芸術にふれることで、自分にそんな力が身につけば、この厳しい状況の中でも、世界を少しでも前に進めていくことができるのではないかと思えた時間でした。
文:飯村有加(一般社団法人はなまる)
写真:奈良市アートプロジェクト実行委員会事務局